「非論理的な理論」が出回る米国株式市場


「非論理的な理論」が出回る米国株式市場

2021年8月31日日経夕刊に『緩和縮小「ハト派的」で強気』が掲載されている。

『「相場の動きについていくのに必死だ」。米株の銘柄選別を専門とするアクティブ運用担当者はこう打ち明ける。顧客からはベンチマークであるS&P500種株価指数を上回る運用成績を求められているが、同指数の年初来の上昇率は20%を超え、30日も最高値を更新した。さらに相場をけん引する銘柄群が頻繁に変わり、強気相場に乗り切れないという。市場関係者も足元の株高を説明するのに窮しているようにみえる。象徴するワードが「Dovish Tapering(ハト派的なテーパリング)」。米連邦準備理事会(FRB)のパウエル議長がジャクソンホール会議で年内のテーパリング開始に言及し、似たような説明が出回った。

FRBは量的金融緩和の一環で、米国債などを毎月購入している。テーパリングとは債券購入量の減額を指す。市場への流動性供給は減るため、金融引き締め方向といえる。一方、「ハト派」とは一般的に金融引き締めに慎重な立場を示す。本来、「ハト派的なテーパリング」はあり得ない。市場関係者の声を総合すると、パウエル議長が(1)新型コロナウイルスのインド型(デルタ型)の感染拡大に言及し、テーパリング開始時期を明示しなかった(2)資産購入の減額の時期や速度は、直接的に利上げの時期を示唆するものではないと明言した――といった点が「ハト派的」だったと捉えられている。

こうした解釈に異論もある。米証券ミラー・タバックのストラテジスト、マシュー・マリー氏は「正直、なぜ市場が過度にハト派的に解釈したのか理解できない」と明かす。市場にマイナスにならない方法で緩和縮小を進めると予想することは可能だが、「『引き締めではない』と主張できないはずだ」と指摘する。米ジョーンズトレーディングのストラテジスト、マイク・オルーク氏はより辛辣だった。長引く金融緩和で「市場の価格形成メカニズムが壊れている」と指摘した上で、「テーパリング開始予告」後の高値更新を正当化するために、非論理的な理論が出回っていると述べた。投資家は「非論理的」であろうと株式を保有し続けたり、買い増したりする理由を探している。アクティブ投資家は足元の株価に割高さを感じていても、S&P500指数が上昇し続けるため、売るタイミングがみつからない。仮に売ったとしても、新たに割安な銘柄を見つけるのは難しい。』
『長引く金融緩和で「市場の価格形成メカニズムが壊れている」と指摘した上で、「テーパリング開始予告」後の高値更新を正当化するために、非論理的な理論が出回っている』という指摘で思い出すのが80年代後半の日本株でもあった『Qレシオ』。『Qレシオ(Q ratio)』は「実質株価純資産倍率」とも呼ばれ、株価を一株当たりの実質純資産(時価評価した純資産)で除したものをいう。当時、『公示地価』の本が飛ぶように売れ、我々アナリストはその『公示地価』の本を用いて担当企業の実質純資産(時価評価した純資産)を計算していた。通常のPER(株価純資産倍率)では説明ができなくなり、何か当時の株価を説明できるものはないかと絞り出した理論の一つが『Qレシオ』だった。

バブルのピークとなった89年には『Qレシオ』でも説明ができなくなっていたが、年が明けた90年の「大発会」から株価急落が突然始まったが、市場関係者の多くはそれがバブル崩壊の始まりとは誰も気づいていなかった。きっかけは何だったのか?1989年12月に日本銀行総裁に就任した三重野氏が就任直後から急激な金融引き締めに踏み切り、12月に公定歩合(当時の政策金利)を3.75%から4.25%に引き上げ、その後も90年3月に5.25%、8月に6%に引き上げた。89年12月28日に3万8915円の史上最高値をつけた日経平均は90年10月1日には一時2万円を割り込み、地価も91年をピークに長期の下落基調に転じてバブルは完全に崩壊した。当時、バブル退治に邁進する三重野総裁の姿は「平成の鬼平」ともてはやされたが、今から振り返ると、単なる日銀の政策ミスがきっかけということだろうか。当然、90年のバブル崩壊以降、この『Qレシオ』を使用したことは一度もない。

通常のバリュエーションの一つであるPBR(株価純資産倍率)で現在のS&P500をみると、2021年7月4.7倍で2000年3月5.1倍以来の高水準となっており、2000年のITバブルに匹敵するバブル相場が形成されていることを示している。一方、日本株も「株式時価総額/名目GDP」、いわゆる「バフェット指数」でみると今3月末1.39倍で、前述の80年代後半の内需バブルに記録した90年1月1.42倍の過去最高に接近、バブル相場が形成されていることを示している。当時と同様、このような『非論理的な理論』が出回るのは末期的症状であり、現在の相場が「緩和マネー」をベースにしたバブル相場であることを物語っている。それと同時に、当局のちょっとした金融政策のミスでいつでもバブル崩壊となることも忘れないことである。