人と会社の「寿命」が逆転

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人と会社の「寿命」が逆転

2019/6/16日経新聞に『人と会社の「寿命」が逆転~大転職時代の足音』のコラムが掲載されている。

『経済界のトップから日本的雇用慣行の中核ともいえる終身雇用について問題提起が相次いだ。中西宏明経団連会長(日立製作所会長)は5月7日の会見で「終身雇用を前提に企業経営、事業活動を考えるのは限界。外部環境の変化によって働き手はこれまでの仕事がなくなる現実に直面している」と述べた。これに呼応するかのように、トヨタ自動車の豊田章男社長も「企業へのインセンティブがもう少し出てこないと、終身雇用を守るのは難しい局面」と日本自動車工業会の会見で表明した。2人の言葉は、令和時代の日本の雇用がどう変わるのかを示唆する予言的な重みがある。

「企業の寿命は30年」とかつて言われたが、今ではさらに短い。米調査会社のイノサイトなどの調べによるとS&Pの株価指数を構成する米大企業の平均寿命は1960年には60年を超えていたが、足元では20年程度に”短命化”し、今後は一段と短くなるという。長寿企業が多いといわれる日本でも、帝国データバンクによると現時点の企業の平均年齢は37.16歳にとどまり、創業100年を超える会社は全体のわずか2%しかない。
グローバル化やデジタル化による競争圧力は日増しに高まり、M&Aや再編も日常化した。大企業といえども生き残りの保証はなく、仮に存続したとしても中身が非連続的に変化し、別物になることもある。

こうした企業(事業)の短命化とは裏腹に、1人の人間が働く時間は伸びている。政府は来年の国会に、希望する高齢者は70歳まで働ける環境を整える法案を出す予定だ。22歳で大学を卒業して70歳まで働けば、労働に従事するのは48年。企業の寿命が30年未満とすれば、人の労働寿命が会社の寿命を追い越してしまう時代の到来である。そこで必要になるのは転職であり、転職スキルだ。若い世代はこの点で心の準備ができているように見える。採用支援会社のアイプラグの調査では、就活中の現大学4年生のうち「将来的に転職もあり」と考える人が71%を占め、「転職はなし」の6%を圧倒した。マイナビによると、今春に就職した大卒の新社会人のほぼ1%にあたる5千人弱が既に同社の転職サイトに登録した。4月の入社式から2カ月あまりで早くも転職の機会をうかがう若者がこれだけいるのだ。
「辛抱が足りない」と批判的にみるのか、「スーパー転職時代の申し子」と受け止めるのかは人によろうが、直視すべき現実には違いない。むしろ対応に苦しみそうなのは、終身雇用を前提にして組織や制度を組み立ててきた大企業や労働組合、政府などの「体制側」だろう。中西発言、豊田発言を契機として、転職時代への備えを急ぎたい。』

このコラムをご紹介したのは、人と会社の「寿命」の逆転が「終身雇用」終焉を告げるという視点が面白かったからである。確かに、働く会社の平均寿命が労働に従事するのは48年を下回れば一生同じ会社に働きたくても働けないことになる。

また米企業の平均寿命が20年で、日本企業の37年と比べかなり短命化していることには驚かされるが、それは実は米国が新陳代謝が進んでいるという見方もできるのではないだろうか。むしろ、日本企業の新陳代謝が遅れていることで平均寿命が長いというより、日本企業の高齢化が進んでいるとの見方が正しいのかもしれない。2012年起業家精神に関する調査で、米国が1位に対し、日本が最下位となっていることや、開業率・廃業率の国際比較で日本の開業率が4%台に対し、米国が9%と日本の2倍以上なのも新陳代謝が進んでいる好例だろう。冒頭のコラムは日本の平均寿命が短くなっていることを危惧したり、嘆いたりしているようにも見えるが、実はそれは逆で、国際比較ではもっと平均寿命は短くならなければならないのではないだろうか。題名にある「大転職時代の足音」よりも「大創業時代の足音」を聞ける日本を期待したいものである。