米長・短利回り差縮小は「物価高による景気停滞懸念」を予見?


米長・短利回り差縮小は「物価高による景気停滞懸念」を予見?

2021年10月21日日経新聞に『難路の経済回復、米金利が予見~長・短期債の利回り差縮小 物価高で景気停滞の懸念』が報道されている。

『高インフレや利上げへの警戒感が強まる米債券市場で金利形成に異変が起きている。期間2~5年の国債の利回りに強い上昇圧力がかかる一方、10年超は上昇の勢いが鈍く、長短の金利差が急縮小した。長い目でみた景気停滞や利上げ余地の小ささを意識している。高めのインフレ圧力が続く予兆もみられ、経済の正常化シナリオには暗雲も漂う。

異なる期間の金利を線で結ぶイールドカーブ(利回り曲線)。右肩上がりの傾きが緩やかになるフラットニングと呼ぶ現象だ。金融引き締めに転換する時期にみられ、とくに市場に景気の先行き懸念が強まっているときに起きやすい。金融政策の変化に敏感な5年物金利の上昇はインフレ圧力が米連邦準備理事会(FRB)の執行部が唱えるような「一時的」なものでは収まらず、結局は利上げを急がざるを得なくなるとみている証左といえる。

将来の政策金利水準を予想する翌日物金利スワップ(OIS)市場では18日に22年9月の利上げ開始を織り込み、6月開始をうかがう場面もあった。量的緩和縮小が完了する前に利上げを始めるという、やや極端な想定だ。22年中に2回の利上げも意識されつつある。だが、その先の利上げペースは鈍る。JPモルガンによると10月以降、23年末までの利上げ回数の織り込みは3回程度から一時4回に高まったのに対し、逆に24年以降は4回程度から3回に満たない水準に後退した。

10年超の金利の上昇が鈍いのは、その後も長い目でみて景気停滞が続くとみていることを示す。ここでポイントになるのは、市場がインフレ圧力の強さをどうみているのかという点だ。見た目の金利(名目金利)は、市場参加者の物価見通しを映す「インフレ予想」と、名目金利から物価見通しを差し引いた正味の国債利回りである「実質金利」に分解できる。実質金利はFRBの金融緩和で大幅なマイナスの状態にあり、引き締めはマイナス幅の縮小を意味する。中短期金利に上昇圧力がかかり始めた9月下旬以降の金利変動の要因を分解すると、どの年限も勢いの差こそあれ、インフレ予想の上振れが金利上昇を主導した。長短金利の縮小が目立ち始めた10月8日以降に限っても、5年債の名目金利の上昇は実質金利のマイナス幅縮小よりも、インフレ予想の上昇に支えられている。30年債に至ってはインフレ予想は高止まりしたまま、実質金利のマイナス幅はむしろ広がり、名目金利を押し下げている。

やや高めのインフレが続くなか、利上げを長く続けるだけの景気の強さに欠ける。金利分解からみえるのは、そんな米経済の未来像だ。1970年代のような急激なインフレは避けられるものの、「スタグフレーション(物価上昇と景気停滞の併存)」に近い状態が続くと意識されている。』

冒頭の記事でも指摘している異なる期間の米国債利回りの動きは先週もお伝えした通り、年限の短い債券の利回りから上昇が始まっているだけである。17年~18年にも起きた現象であることも指摘した。そして、この記事の内容で間違いを指摘しておかなければならないポイントは、「右肩上がりの傾きが緩やかになるフラットニングと呼ぶ現象だ。金融引き締めに転換する時期にみられ、とくに市場に景気の先行き懸念が強まっているときに起きやすい。」である。

T-model理論では「フラットニングは金融緩和策の一つ」であり、現在は18年~19年の緩和ピークから引き締めの段階に入り、21年3月から一旦、緩和の揺り戻しが起きているに過ぎないと考えている。つまり、07年2月の緩和ピークから引き締め段階に入り、08年4月から一旦、緩和の揺り戻しが起きた時期と似ているとみている。T-model理論では、「イールドスプレッド」は過去、サイクルを描いており、現在が景気サイクルのどのタイミングに位置しているかを計る上で極めて重要であるかをこれまで何度も指摘してきた。そして、それがこれまでの経済の教科書にない、T-modelのオリジナル理論であることもお伝えしてきた。何故なら、記事にある「金融引き締めに転換する時期」のような曖昧な見方では危機には全く対応できない近未来が到来するためで、少しでも多くの方々にその準備をしてほしいと願っているからである。10年債利回りが3月ピークを越えると市場には新たな混乱の始まりとなるため注意が必要だが、当然、それを避けるための当局による抵抗が現在の「フラットニング」にも現れていると言えるかもしれない。けっして記事にある「長い目でみた景気停滞や利上げ余地の小ささを意識している。」訳ではないことは間違いないだろう。さて、その抵抗がどこまで通用するかが見ものである。