金融緩和も、財政出動による景気刺激策も景気拡大には結びつかない?

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金融緩和も、財政出動による景気刺激策も景気拡大には結びつかない?

2019/8/22の日経夕刊に『人口減の世界、金融緩和に限界』が掲載されている。興味深い記事なのでご紹介する。

『そんな中で景気は政府による制御の域を超えたとする経済の”ニューノーマル”論が浮上した。米証券モルガン・スタンレーの資産運用子会社ストラテジスト、ルシール・シャーマ氏がニューヨーク・タイムズに寄稿した。

それによると、日本や中国、ロシアなど世界各国で人口が減り始めており、これが景気拡大を妨げる要因になっているという。そのため金融緩和も、財政出動による景気刺激策も景気拡大には結びつかないと指摘する。むしろ、マイナス成長を懸念するよりも、国民1人当たりの実質国内総生産(GDP)に着目することを奨励する。

例えば日本の景気も1人当たりGDPの伸びに換算すれば、米国並みの成長ペースになる。「景気が悪化しても、日本で社会的不安が募らないのは1人当たりの経済成長率が堅固だから」と分析する。人口動態の変化を踏まえた同氏の試算によれば、景気が順調に拡大しているとされる成長率の指標は、新興国で5%、中国のような先進国と新興国の中間の国で3~4%、日本やドイツ、米国などの先進国で1~2%になる。このように経済的繁栄の定義を書き換えれば、パウエル議長もトランプ大統領のプレッシャーを受けて利下げにまい進したり、世界の中央銀行が利下げ競争をする必要もないかもしれない。』

『金融緩和も、財政出動による景気刺激策も景気拡大には結びつかない』。これまでの世間の常識を覆すなかなか面白い分析である。この考え方で主要国の一人当たりGDPを見ると、日本は210年~2018年が-12%と唯一マイナス成長となっていることはかなり問題ということになる。つまり、人口減以上にGDPが減っていることを意味するからである。2000年までは日本は1人当たりGDPで米国を上回る水準で、小国を除くと実質的には世界第1位だったが、現在は米国は勿論、ドイツやイギリスにも抜かれている。アベノミクスによる円安に加え、消費増税で低インフレ率が定着していることが日本の地位を相対的に低下させている。名目GDPが増えていないことが原因だが、そのようななか、さらに名目GDPの成長を阻害すると考えられるのが10月からの消費増税である。世界と逆行する日本は何を目指そうとしているのか。どんどん国民を貧乏にしようとしているようにしか見えないのだが・・。試算すると、関税が重荷になる米国向けのマイナス効果は100億ドルまで縮み、非米国向けの採算改善も含めると1100億ドルものプラスになる。』という試算だろう。これではトランプ政権が目的とする中国との貿易赤字縮小には向かわないどころか、中国も米国との貿易交渉において時間稼ぎが可能になってしまう。米国が中国を「為替操作国」に指定するのも無理もないのではないだろうか。ただ、中国もジレンマがあり、中国の富裕層などは資産を海外にいかに逃がすかを考えていることから元安圧力がかかる一方、それに対抗するかたちで当局は元買い介入を実施するため通貨供給量が減る意図せぬ金融引き締めになることだろう。

また我が国でもこの米中の通貨戦争で影響が出始める可能性がある。ドル元が抵抗線とされていた7元を割り込んだことで円元でも元安が進行、円元は15年6月に1元20.23円まで円安が進んだが、直近では16年9月以来となる15円台とピークから25%もの円高が進行している。当然、中国からの輸入にはメリットは大きいが、問題は低迷する日本の消費を一部カバーしてきたインバウンドが減少する懸念が出てきていることである。以前から何度も指摘しているが、訪日外国人の前年比、特に中国人の訪日はこの円元に連動しているからである。10月に消費増税を控える日本において、インバウンドが減ることは既に冷え込んでいる日本の消費を一段と冷え込ますことになりかねないのである。今月21日に7月訪日外客数が発表され注目されるが、8月以降の訪日外客数にも目が離せなくなってきている。