35年振りに円安が「購買力平価」へ接近


35年振りに円安が「購買力平価」へ接近

2021年10月29日日経新聞に『円安「購買力平価」へ接近~アジア景気に冷や水も』が掲載されている。

『28日の外国為替市場で円相場は1ドル=113円台後半を中心に推移した。急激に進んだ円安・ドル高は一服感があるが、円の先安観は根強い。アベノミクス以降、円相場の下限とされてきた指標に「購買力平価(PPP、消費者物価ベース)」があり、足元の円相場はそれに急接近している。日米の金融政策の姿勢の差からこのまま円安が続けばPPPという水準線を超えて円安が進む可能性すら見えてきた。

PPPは「ある国の通貨の購買力が他の国でも同じになる」との考え方に基づき、2国間の物価を比較して算出した理論的な為替レートのことで、円相場の適切な水準を探る指標の一つとされる。国際通貨研究所によると、直近の9月のPPP(1973年基準)は114円26銭。PPPは円の安値の「越えられない壁」として市場で意識されてきたが、円相場は10月に入って一時、PPPを下回る場面があった。外国為替市場で変動相場制が採用された73年を起点にすると、円相場が月中平均(日銀公表値、午後5時時点)でPPPを下回ったのは米レーガン政権がドル高を許容していた80年代中盤までが最後。85年のプラザ合意で円安是正が示されてからは「円相場のPPPへの接近が米国の円安批判の一つの基準だった」(みずほ証券の小林俊介チーフエコノミスト)。

80年代中盤からアベノミクスの頃までは、企業物価ベースのPPPが意識された。だが生産拠点の海外移転で、過去の「円安→輸出拡大→外貨の円転需要増→円高」のサイクルが働きづらくなり、より下限の広い消費者物価ベースのPPPが意識されるようになったという。ただ、現在の円相場は消費者物価ベースのPPPさえも下回る水準に突入しつつある。あおぞら銀行の諸我晃チーフ・マーケット・ストラテジストは「米連邦準備理事会(FRB)の利上げペースの見込みが早まれば、PPPの水準を超えて円安・ドル高が進む可能性がある」と指摘。日銀は今後も大規模な金融緩和を継続する公算が大きく、円売り・ドル買いは続きやすい。』

購買力平価(PPP、purchasing power parity)はある国である価格で買える商品が他国ならいくらで買えるかを示す交換レート。 例えば、ある商品が日本では200円、アメリカでは2ドルで買えるとすると、1ドル=100円が購買力平価ということになるが、実際の為替レートは為替市場での需給や貿易の際のコストなど両国の購買力以外のさまざまな要素によって変わる。ただ、長期的にみれば購買力平価から一方的に乖離することはなく、商品価格を基準にするため生活実感に近い値が求められるというメリットもあるという。 直近の9月の消費者物価ベースのPPP は114円26銭、企業物価ベースのPPPは90円77銭だが、2つのPPPには25円近い違いがあるが、冒頭の記事の指摘にもあるように、消費者物価ベースのPPPを下回ったのは米レーガン政権がドル高政策をとっていた80年代中盤しかない。直近10月に、36年振りに消費者物価ベースのPPPを下回ったがこれは当時と同様、米国が「ドル高政策」を取っているためだろう。

T-Modelオリジナル理論の「ドルインデックスの15年サイクル」では、24年~25年に「ドルインデックス」がボトムを付けにいくドル安が到来する可能性を予測。つまり、その頃には再び、企業物価ベースのPPPを目指す円高に振れる可能性があるということになる。

また、先週の日経新聞には、冒頭の記事のような直近の「円安」に関する特集記事が多かった。10月26日『投棄マネー、円安招く』、10月27日『円安一服「115円の壁」』、10月30日『資源高が招く「悪い円安」』などが代表例だが、特に、10月30日『資源高が招く「悪い円安」』では間違いを指摘しておかなければならない。

『「悪い円安」という言葉を耳にすることが多くなった。これまで日本では、円安が進むと、自動車や電機などの輸出企業がドル建ての製品価格で海外企業よりも優位になるため、日本経済の追い風になるとの見方が多かった。円安・株高が連動する場面が多かったのもこのためだ。ところが今回の円安局面では、株高との連動性が薄れている。いったい何が起きているのだろうか。』と指摘。

2015年頃までは「円安・株高」だったが、現在、「円安・株高」となっていないのは「輸出企業がコストの安い中国や東南アジア諸国などに生産拠点を移し、日本からの製品輸出を切り替えている。結果として、近年は円安が日本経済にとって必ずしもメリットと言い切れなくなっている。」と説明している。このような記事を読むと一瞬、納得してしまいそうになるかもしれないが、おかしな点に気づいただろうか。

日本の輸出企業が海外にここ5年で生産拠点を海外に移したわけではなく、90年代から始まり、2000年代に加速している。「円安・株高」とならない理由を「日本企業の海外生産」を理由にするのは無理があるということである。では、何が原因なのか。 答えは単純で、外国人投資家が日本株を買っていないからである。外国人投資家は、15年6月のピーク時に累計で約45兆円あったが、20年9月の直近ボトムには約18兆円と6割減少していることが「円安・株高」となりにくい理由である。つまり、2015年までは日本株に投資する外国人の資金フローが為替に影響を与えていただけなのである。それを実体経済で強引に理由を見つけようとすると「日本企業の海外生産」が理由となってしまうのである。「悪い円安」「良い円安」といった納得しやすい言葉には気をつけるべきだろう。為替相場には良いも悪いもないからである。