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「株価こそ全て」の日米経済

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「株価こそ全て」の日米経済

2020/3/11日経新聞に『「株価こそ全て」の米経済に影』のフィナンシャルタイムズの記事が掲載されている。これまで私が本やセミナーで分析したきた内容にほぼ近く、復習の意味でも今回、ご紹介することにした。日本では同じ考え方をする方は少ないが、金融が日本よりも進化している世界にはやはり似た考え方をする方が存在する。著者はグローバル・ビジネス・コメンテーターのラナ・フォルーハー(Rana Foroohar)という女性。米国生まれで、米ニューズウィーク、米タイムを経て2017年3月にFTに移る。米IT(情報技術)企業の事業を通じ蓄積した利用者のデータを駆使した事業モデルの在り方に早くから警鐘を鳴らしてきたことで知られる。米外交問題評議会の生涯会員。

『最近の株式市場の動きは、大きな悲しみを受け入れ、消化するまでのいわゆる「悲しみの7段階」である「ショック」「否定」「怒り」「取引」「抑うつ」「受け入れるための様々な試行」、そして最終的な「受容」までのプロセスを見ているようだ。市場がまだ最後の段階に至っていないのは明らかだ。だが、米株価の下落は新型コロナウイルスが真の理由ではなく、筆者が以前から予想していた調整局面を誘発する引き金にすぎなかった。米国は過去最長の景気回復期にある一方で、世界が抱える累積債務は過去最高を記録(編集注、国際金融協会によれば昨年第3四半期に世界の国内総生産=GDP=の3.2倍に達した)、信用の質は低下し、何十年も続く低金利は資産価格を持続不能な高い水準にまで押し上げきた。

<今の米経済はいかに資産バブルを崩壊させないかが実態>

投資家や政治家、中銀の政策立案者がこの事実を認めたがらないのは、痛みが伴うことは先送りしたいという人間の傾向だけが理由ではない。そこには、事実に基づいたもっと恐ろしい理由がある。米経済は、今や資産バブルをいかに崩壊させないかにかかっているというのが実態だ。投資情報を提供するルーク・グローメン氏は毎週発行するニューズレター「The Forest for the Trees(木をみて森をみずの意)」の最近の号で、この点をしっかり数字で示した。米経済は消費が約3分の2を占める。しかし個々人の消費動向はその収入によってだけ決まるわけではない。自分が保有する株や債券といった資産価格が今後どうなるかという期待とも結びついている。驚くのは、米国がこれらの資産価格の上昇にあまりにも依存するようになってしまったことだ。グローメン氏の計算によると、ネットのキャピタルゲインの額と米個人退職勘定(IRA、退職金などを積み立てる税優遇付き口座)から引き出した金額の合計額は、米個人消費支出額の年間拡大額の2倍に等しいという。

<資産価格下落したらGDP拡大はあり得ない>

消費が株価と連動しているといっても、手の消毒液やミネラルウオーター、マスクを買うために退職勘定を取り崩しているわけではない。グローメン氏が指摘したのは、「もし資産価格が下落方向に向かえば、数学的に米GDPが拡大することはあり得ない」ということだ。従って米連邦準備理事会(FRB)が3日に、(政策金利の)フェデラルファンド(FF)金利を0.5%引き下げたのは当然だった。(新型コロナウイルスの感染拡大に伴い、株価が下落して)市場の投資家が動揺するという予測の下、緊急利下げに踏み切ったわけだが、実際、株価は同日下げた。S&P500種株価指数は、その日だけで3%近く下落した。FRBは、何も手を打たないことの方が株式市場を暴落させるリスクになると判断したのだ(編集注、それでも米株価は原油価格の下落などを受け9日、さらに大きく下げた)。

中銀の政策立案者は、みな聡明(そうめい)だ。金融政策でウイルスの感染拡大や政治の機能不全を解決できないことを知っている。だがFRBの政策立案者は、米国がどの国と比べても避けられない事態に追い込まれていることに気づいている。つまり、この数十年間、特に2008年以降、低金利による資産価格の高騰に依存してきた経済の崩壊を何としても回避しなければならないということだ。株価を上昇させたことは結果として、米国民の下位80%の人々の週当たりの平均実質賃金が1974年の水準にすぎないという事実と、多くの人がもはや中産階級の条件である医療、教育、住宅に手が届かなくなっているという事実を消費者(と有権者)から見えにくくしてきた。

<GDP伸び率と税収が株価水準次第の事実>
こうした事実を踏まえると、ニューヨーク市場の株価が米国全体の経済的な豊かさを表しているとするトランプ米大統領の強弁は、米国には暗い話だが、ある意味、理屈が通っている。S&P500指数が示す価値は、米国の企業や消費者の健全性を測る物差しではなく、むしろ一部のテック企業が上げた利益の規模と2017年に実施された大型減税の恩恵を示している。12年から現在までの企業利益拡大分の3分の2は17年の大型減税からくる。一方、最も稼ぐ上位5%の高額納税者が納める所得税の極めて大きな部分は株価上昇によるものだ。彼らは全所得税収の約60%を納めている。税収とGDP伸び率が株価上昇にかかっていることを考えると、FRBがさらなる利下げを拒むとは考えにくい。株式市場によって経済が支えられているだけに、市場が暴落したら経済も崩壊することになるからだ。

<今の経済は長年の政策変更が招いた結果>
こうした状況は必然ではなかったし、1日で至ったわけでもない。米経済は1970年以降、少しずつ米株価が上昇するか下落するかで成長が決まるようになっていった。米経済の現状は長年、民主党と共和党が次々に政策を変更してきた結果だ。そうした政策変更の一つが1982年に、一定の条件下で自社株買いを解禁したことだ。自社株買いは不正な相場操作行為とされていた時期があったにもかかわらずだ。ストックオプションに優遇税制を導入し、既に恵まれた従業員が自社の時価総額の増加に伴って大きな利益を得られるようにした政策の変更もある。最も根本的な政策変更は、確定給付年金から確定拠出年金(401k)への移行だ。これにより多くの米国人が変わりやすい株価と運命をともにすることになった。これら全ての根底には、株価こそが企業、ひいては経済全体の状態を表す究極の指標だという幻想があった。』

「米株価の下落は新型コロナウイルスが真の理由ではなく、筆者が以前から予想していた調整局面を誘発する引き金にすぎなかった。」は生活防衛の教室やセミナーで何度も指摘してきたことである。今回の株価急落は昨年末までの株価操作で溜まっていた急落調整のエネルギーが新型コロナウイルスの感染拡大表面化したに過ぎず、急落の原因を新型コロナウイルスの感染拡大と考えている多くの市場関係者にはこれからの見通しも予測は無理なのではないだろうか。

また米国の景気は個人消費次第で、「個々人の消費動向はその収入によってだけ決まるわけではない。自分が保有する株や債券といった資産価格が今後どうなるかという期待とも結びついている。驚くのは、米国がこれらの資産価格の上昇にあまりにも依存」し、「消費が株価と連動している」ことも私がいつも指摘してきたポイントの一つである。

「2008年以降、低金利による資産価格の高騰に依存してきた経済の崩壊を何としても回避しなければならないということだ。」は米国の話だが、アベノミクス以降、日本経済も米国と同様、「資産価格の上昇にあまりにも依存」する傾向となっている。外国人が日本株を売り込む中、GPIFと日銀による買い上げで株価を上昇させてきたからだ。「税収が株価と連動」と同時に、有効求人倍率を過去最高水準まで押し上げた原動力である。

つまり、日米の経済は「資産バブルをいかに崩壊させないかにかかっているというのが実態」だが、今回の「コロナショック」でそろそろそれが終焉を迎えようとしているのが現状である。

昨年5月に出版した拙書『今持っている株は手放しなさい!』では、今回のような「リーマンショック」級の株価下落を予告したわけだが、信じなかった方が多かったのではないだろうか。人間は目の当たりし、自分に危害が迫らないと気づかないものである。

だが、2020年からの激変は目の当たりにしてからでは遅いということ。その証拠に今回の株価暴落は「史上最速」で起こっているからで、津波と同じだからだ。だからこそ事前に予測し、想像して前もって動かないといけないというのが今回の暴落の教訓である。今回はあくまで「予行練習」のようなもので、本番は秋から来年になるだろう。景気はもう一段悪くなり、企業も金融機関も破綻するところが出て、失業者も激増してくるかと思われる。その時になってドタバタと行動しても手遅れで、だからこそ今すぐにでも行動することが必要なのである。

この『今持っている株は手放しなさい!』の「おわりに」には「20年以降、たぶん8割以上の人が対応不可能なくらいの規模の金融危機に追い込まれます。私のイメージは戦後の焼け野原です。これが金融市場で起こるんです。戦後の焼け野原では「生きるか死ぬか」のギリギリの選択が強いられてきたことでしょう。次の金融危機で同じことが問われるはずです。そこで生き残った先達たちは「生きる覚悟」を持って現実に対峙していったんです。だから私たちも生きる覚悟を持って、これから起こる金融危機の衝撃に耐えなくてはなりません。」と書いている。まさに、今回の新型コロナウィルスも、リーマン級の株価暴落も戦後の焼け野原が始まったことを意味する。だからこそ、「生きる覚悟」が問われている。何も考えない思考停止の人々が淘汰されるようなことがこれから次々と起こるだろう。アベノミクスの株価操作で、日本に起こるべきひどい状況が先送りされ、その間、何を考え、どう生きてきたかが問われるのである。

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