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ブレトンウッズ3
ブレトンウッズ3
2022年3月28日日経新聞に『「ブレトンウッズ3」の足音~せめぎ合うドルと商品』が掲載されている。これから2025年に向けて何度も取り上げるテーマになるとため、今回は簡単にご紹介することにした。
『グローバル化の旗手が、グローバリズムの「終止符」に言及した。米資産運用会社、ブラックロックのラリー・フィンク最高経営責任者(CEO)である。ロシアのウクライナ侵攻を受けた2022年2月26日は分岐点となった。この日、欧米6カ国と欧州連合(EU)はロシアを国際金融の世界から排除することに合意した。ロシアの銀行を国際送金網から締め出し、ロシアが保有する外貨準備の凍結に踏み切ったのである。米国側はワリー・アディエモ財務次官、ダリープ・シン大統領副補佐官(国家安全保障担当)。欧州側はイェルク・クキース独財務次官。3氏が強硬策を立案、推進した。
(途中略)
「ブレトンウッズ3」。クレディ・スイスの金利戦略責任者、ゾルタン・ポズサー氏は新しい世界をそう呼ぶ。金と交換可能なドルを軸にした第2次大戦後の国際通貨の仕組みが「ブレトンウッズ体制」。1971年のニクソン・ショックでドルは金との交換を停止した。金という制約から解き放たれた米国は経済運営の自由度を高めた。米国は経常収支の赤字が続くが、ドルは基軸通貨なので、海外勢による米国債の購入という形で、資金は自動的に還流してくる。これが「ブレトンウッズ2」の要である。冷戦終結後、米国主導の世界では供給力が増しインフレが抑えられた一方、ドルの供給の天井がなくなった。そのために、モノに対するマネーの比重が著しく高まった。世界のどこかしこでバブルの膨張と破裂が繰り返された。08年のリーマン・ショックでその仕組みの底が抜けかけた。土俵際で米連邦準備理事会(FRB)が米国債などの資産を買い支え、世界は成長軌道に戻ろうとしていた。ところが20年にはコロナショックが世界を襲う。米国などはリーマン後の対策をより大規模に実施し、今度も危機を乗り切ろうとした。大不況は防げた。でも何かが違う。冷戦後の世界が抑え込んだはずのインフレが復活したのである。そこへロシアによるウクライナ侵攻である。
制裁としてロシアからのエネルギー輸入禁止が課題となるなかで、「ブレトンウッズ3」の幕が切って落とされようとしている。米国によるドル資産の差し押さえを危惧する国々は、ドルに代わる代替資産を求める。原油に代表される商品の役割が増す、とポズサー氏は指摘する。資源や食料など国際商品にはロシアからの供給途絶のリスクが加わる。ロシアは世界の原油生産の12%を占めシェア3位。天然ガスの17%で2位、小麦は18%で2位だ。対ロ制裁は肉を切らせて骨を断つ策にほかならない。代償として、ロシア産の商品の供給が減る。その分、ロシア以外の国々が産出する商品にプレミアム(割増価値)がつく。ドルへの信認が低下する分も、商品価格のプレミアムに加算される。その結果、資源の輸入国から輸出国に巨額の所得移転が起きる。トルコやインドなど非資源国ではインフレと資本流出の圧力が高まり、政情不安を招きかねない。(省略)』
ご存知の方も多いかもしれないが、「ブレトン・ウッズ体制」とは第2次大戦末期の1944年、米国のブレトン・ウッズで開かれた連合国会議(45ヵ国参加)で成立したブレトン・ウッズ協定にもとづく国際通貨体制(IMF体制)。戦後の通貨安定のために金ドル本位制と固定為替相場制を採用し、金1トロイオンス(31.10グラム)が35アメリカ・ドルで交換でき、ドルが世界の基軸通貨となった。だが、ベトナム戦争などの軍事費膨張やアメリカ多国籍企業の海外投資拡大でアメリカ経済は国際収支の赤字と財政収支の赤字を抱える一方、金保有量は激減、1968年に米国が金とドルの交換を事実上停止、1971年8月15日に米国ニクソン大統領はドルの金交換停止を柱としたドル防衛策を発表した所謂「ニクソン・ショック」後、1973年春までに主要国は固定為替相場制を放棄してブレトン・ウッズ体制は終わった。
現在は、ドル本位制のブレトンウッズ2(1973年~)だが、クレディ・スイスの金利戦略責任者、ゾルタン・ポズサー氏は近未来に金などコモディティをベースにした「ブレトンウッズ3」に移行すると予告する。今回のロシアを国際金融の世界から排除したことを契機に、プーチン大統領が金本位制に移行すると発表した影響が大きいのかもしれない。世間ではまだまだ信じられていないが、歴史的サイクルからは新しい通貨制度への移行は現実的になってきている。以前からセミナー等で紹介しているT-Modelの「ドルインデックスの15年サイクル」でも2024年~25年にドルは新ドル発行となる可能性を指摘してきたが、それが「ブレトンウッズ3」というかたちで現実味を帯びてきたことになる。プーチンは現在のウクライナ侵攻だけではなく、ドル基軸通貨という現在の「ブレトンウッズ2」にも金融戦争を仕掛けてきたと考えるべきではないだろうか。西側諸国によるロシアへの経済制裁で98年の「ロシア危機」のようになると考えている人々は多いかもしれないが、それが西側諸国にはブーメランとなって通貨制度の変更に跳ね返ってくることをどれだけの人々が想像できているだろうか。ロシアウクライナ問題は通貨制度の変更を含む2025年まで続く激変の始まりとの認識が我々には必要だろう。