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「ドル調達不安の連鎖」は起きてる?


「ドル調達不安の連鎖」は起きてる?

2022年3月1日日経夕刊に『ドル調達不安の連鎖警戒』が掲載されている。

『この日の話題となったのは、短期金融市場でのドルの調達コストの上昇だ。リフィニティブによると、ユーロをドルに交換する際の上乗せ金利(3カ月物)は前週末の2倍近くになり、新型コロナウイルスの感染拡大初期で市場が大混乱に陥った2020年3月以来、約2年ぶりの高水準になった。円をドルに換える際の上乗せ金利も同様に急上昇する場面があった。それだけドルの調達需要が高まったことを意味する。

こうした現象はウクライナへの攻撃を続けるロシアに対抗するため、米欧日が金融制裁を強化した跳ね返りとして生じた面がある。米欧は先週末、ロシアの大手銀行などを国際決済網のSWIFT(国際銀行間通信協会)から排除することを決めた。米財務省は28日、ロシアの中央銀行が米国の金融機関とドルを取引するのを禁じるといった追加制裁も公表。同中銀が米国内外で抱えるドル資産を使えなくして、ルーブル相場を支える為替介入を封じた。これでロシアの金融機関や企業、個人のドル取引が困難になっただけでなく「ロシアでビジネスを拡大してきた欧州の一部銀行などへのドルの貸し付けも絞られかねない」(在ニューヨークの日系金融機関)との思惑が強まり、ドルの調達市場で負荷がかかった。

「(ロシアの)SWIFTからの排除は20年3月に見たような決済の不具合や(ドル資金の)過度な引き出しを招く」。クレディ・スイスのゾルタン・ポズサー氏も27日付のリポートでこう指摘し、米連邦準備理事会(FRB)がコロナ危機時のようにドル資金の大量供給を迫られる可能性に触れた。当時は米国債などの投げ売りを阻止するため、FRBが各国中銀などを通じたドル供給策を急ピッチで整備。ピーク時には約4500億ドルのドル資金を世界に供給している。

米株や米国債の換金売りを招きかねないドルの調達不安はどこまで高まるのか。バークレイズのジョセフ・アベート氏は「米欧の市場には過去2年間の量的緩和を経て流動性があふれている」と指摘する。さらにFRBがいざというときにドル資金を供給する仕組みも整っており、心理的な安心感もあることから「調達市場で生じる金利ショックは一時的かつ穏当なものにとどまる」とみる。ただ、米欧の金融界からロシアを切り離そうとする過程では「世界の銀行システムのどこかで、何かが壊れることは避けられないだろう」とノムラ・セキュリティーズ・インターナショナルのチャーリー・マケリゴット氏は指摘する。すでにロシアの銀行最大手、ズベルバンクの欧州部門が破綻の危機にひんしており、取引先の資金繰りや信用力を悪化させるドミノ倒しのリスクが強まっている。』

2021/06/21『“恐怖”の3 点セット』のT-Modelコラムにおいて、

『拙書『そしてフェイク経済の終わりが仕組まれる』の第7章『先行指標を探し出せ!』の『リーマンショックを上回る経済危機到来のシグナルは最悪期の「3点セット」』(P195)において、 『2008年9月に起きたリーマンショック時、先に記したドル・インデックスが急上昇していた。同年3月に70だったのが12月には87まで一気に24%もの上昇を見たのだ。要は重大な経済危機に直面した金融市場では強烈な「クレジットクランチ」(信用収縮)』を引き起こすということである。その決済のためにドルキャッシュの需要が急激に高まり、ドル高となるわけだ。

とりわけ大きな経済危機に直面すると認識した場合、投資家は株式や金・原油などの国際商品をすべて売却してドルキャッシュの確保に雪崩打つ。これにより「株安・国際商品安・ドル高」の組み合わせという「“恐怖”の3点セット」の構図に発展する。リーマンショック後、2009年3月あたりまで最悪期の「3点セット」の構図が続いた。当時の金の暴落も3点セットのなかの国際商品安の一部に過ぎない。』

NYダウは6月1日34849ドルを直近高値に先週末18日安値33271ドルまで-4.5%下落。日経平均も6月15日29480円を直近ピークに6月21日安値27795円まで-5.7%下落。またNY金価格は6月1日1918ドルを直近ピークに6月18日安値1761ドルまで-8%強急落する一方、ドルインデックスは5月25日89.5を安値に6月18日高値92.3まで+3%強上昇している。6月に入り、この組み合わせが起きたということは何か水面下で危機が起きている可能性を示唆しており、注意が必要だろう。アルケゴスキャピタルの実質破綻やビットコインなど仮想通貨の暴落はその危機の引き金にもなり得る事象である。

ただ、リーマンショック当時と異なる点もある。それは債券利回りの動きで、2年物は6月10日0.146%を直近ボトムに6月21日0.268%まで+0.122%P上昇する一方、10年物は6月3日1.629%を直近ピークに6月21日1.384%まで-0.245%P下落、30年物も6月3日2.299%を直近ピークに6月21日1.959%まで-0.34%P下落、と冒頭の記事で指摘する「利回り曲線の傾きの平たん化(フラットニング)」が起きていることである。T-Model独自の理論からすると「10年債と2年債の利回り差縮小は実質的な金融緩和策」であることからこのままリーマンショックのような金融危機に発展する可能性は低いことを示す。

今回の債券市場の動きは、FOMCの「利上げ時期前倒し」を契機とした「市場参加者の強烈な持ち高解消」の動きと思われるが、その前に実施される可能性が高いのが国債などを買い入れる量的緩和の縮小(テーパリング)。「テーパリング」を示唆した13年5月の「バーナンキショック」以降、10年債利回りは上昇したが、今回はどうなるだろう。冒頭の記事では、9月決定で10~11月開始の予想だが、そのときに10年債、30年債の利回りはどのような動きをするのだろうか。今回の債券相場と異なる動きとなったときに本当の意味での危機が訪れることになるのだが・・。』と指摘した。

現在の株式・国際商品、ドルインデックスをチェックすると、日経平均はロシアがウクライナに侵攻した前の週の2月22日終値26449円→3月7日終値25221円まで-4.6%下落、NYダウは2月22日終値33596ドル→3月4日終値33614ドルとほぼ横ばい。それに対し、NY金2月22日終値1907.4ドル→3月7日高値2005ドルと+5.1%上昇、WTI原油は2月22日終値92.35ドル→3月6日高値130.3ドルと+41%上昇、またドルインデックスも2月23日終値96.1→3月7日高値99.2まで+3.2%上昇している。つまり、今のところ「株安・商品高・ドル高」で「“恐怖”の3点セット」の構図とはなっておらず、米国の10年債利回りも2月23日終値1.998%→3月7日安値1.671%まで-0.32%P下落していることからも株安は通常のアセットアロケーションであることを示している。

ただ、市場では、ロシアの国債で債務の支払いが実施されない「債務不履行(デフォルト)」リスクの可能性があり、金融システムが動揺するとの警戒を強めている。98年にもロシアが破綻する「ロシア危機」が起きて金融危機に発展したが、今回の98年と同じ「寅年」に再び「ロシア危機」が起きるのは不思議である。ウクライナ情勢が今後どのようになるかは不透明だが、重要なのは「信用収縮」か、「アセットアロケーション」かの見極めである。そのためにも今後は「“恐怖”の3点セット」のチェックが必要なのである。

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