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「大量の資金供給によるマネーイリュージョン(貨幣錯覚)」

「大量の資金供給によるマネーイリュージョン(貨幣錯覚)」

2020/6/6日経夕刊に『株価は経済に先行するか』
が掲載されている。いつも私が指摘する「景気が悪いのに何故上がるか」の理由と同じ考え方をした記事であるため、ご紹介することにする。

『悪化する実体経済と株高の乖離(かいり)――。5月の雇用統計は、これまで繰り返し問われたこの謎に一つの答えを示した。株価の動きは経済に対する先行性を失ってはいなかったというものだ。5月の雇用者数は大幅減少との市場予想に反し、増加した。サプライズの雇用統計は買いが買いを呼ぶ展開を招いた。米主要株価指数先物に対する投機筋の建玉は8年半ぶりの大幅な売り越しだ。二番底想定で相場が下がれば利益が出る売り持ち高を膨らませていた投機筋の買い戻しも巻き込んだ。米株式相場は史上最大ともいえる急激な回復をうかがう。景気の底入れに、これまでの株高をお膳立てしてきた米連邦準備理事会(FRB)の金融緩和が継続すれば、今後はバブル的な株高の様相が強まる。

金融緩和と財政政策で米国の市中に出回っている通貨の総量を示す「マネーストック」は3月以降に急増。FRBが米国内に供給するマネタリーベースと、米国以外の各国中央銀行が外貨準備として保有する米ドルを合算した世界のドルの流通量を示す「ワールドダラー」は5月に8兆ドル(約870兆円)を超えた。コロナショック前の株高局面だった19年末から3割増え、過剰流動性が短期間のうちに急増した。あふれ出た資金は当初、米国の金融資産価格を押し上げた。その後に起きたのが「ドル安による世界的な金融緩和の第2弾」(ジェフリーズのショーン・ダービー氏)だ。ドルの相対的な価値を示すインターコンチネンタル取引所のドル指数は5月後半以降、下落が鮮明となり4日には3カ月ぶりの安値を付けた。3月の直近高値からは6%の低下だ。

ドル安は米国からその他の先進国や新興国に資金が流れていることを示唆する。外国為替市場ではリスク選好時に買われやすい通貨の代表格であるユーロや豪ドル、新興国通貨が上昇。商品市場では銀や銅をはじめとする工業用金属の価格上昇が鮮明だ。ドル安が、世界的に緩やかに物価が上昇するリフレーションを招く構図が強まる。リフレ期待の高まりは債券から株式への資金シフトを促す。

米国ではFRBが国債を無制限に買い入れる。インフレ基調が本格的に強まらない間は政策遂行の使命である「雇用最大化」を目指して緩和を強めるため、ドル安は米国内の金融引き締めにはつながらない。ドル安が続くとグローバルに展開する米企業のドルベースの採算が改善する面も米株式相場にはプラスだ。大量の資金供給によるマネーイリュージョン(貨幣錯覚)でドル安を誘発し、リスク資産の上昇を招く、FRB主導の株高政策。「強気相場は心配の壁を登る」という相場格言がある。懸念材料は残るものの、壁がFRBによって強力に支えられ、当面崩れないとわかれば投資家の心配は大きく軽減される。』

この記事は私がいつも指摘する『ニューノーマル』の考え方を解説したものであり、マネーの供給量を増やし、株価を上昇させ、経済を引っ張るというものだ。5月雇用統計では、非農業部門雇用者数は前月比+250.9万人と市場予想の-750万人程度に反して大幅な増加に転じ、失業率も市場予想の20%を大きく下回る13.3%と、4月の14.7%から1.4ポイント低下した。景気や企業業績が良くなるから株価が上がるという『古い教科書』を前提にした市場関係者の予測が通用しないことを改めて証明した。ただ、予想外の改善を示した5月雇用統計だが、「見えない失業」も増えている。労働人口は3月1億6300万人から5月1億5800万人と500万人減少、職探しを諦めて労働市場から退出した離職者が多いことを示しており、こうした人口を加味すると、5月の実質的な失業率は+3%押し上げられ、16%台とも言われている。

米ゴールドマンサックスは失業率が1ケタ台に回復するのは1年後の21年4~6月以降と予測し、2ケタの髙失業率のまま11月の大統領選を迎える可能性があると指摘した。そのようにならないためにもトランプ政権は11月の大統領選に向けて「大量の資金供給によるマネーイリュージョン(貨幣錯覚)」を強めさせる可能性が高い。その結果、ダウ工業株30種平均は6月5日に前日比829ドル高と5日続伸、2月急落前の史上最高値まで8%に迫り、ナスダック総合指数は2月に付けた過去最高値を一時上回ったが、更に、株価は上昇する可能性が高いだろう。データの根拠なき万年強気論は論外だが、市場に氾濫する『古い教科書』を前提にした弱気の予測も雑音に過ぎず、あまり耳を貸さないことをお薦めする。

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