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実態は悪化を示唆する「2月米国雇用統計」
実態は悪化を示唆する「2月米国雇用統計」
2024年3月9日日経夕刊に『米雇用に市場安堵~和らぐ過熱感、引き締め懸念薄く』が報じられている。
『8日の米金融市場では、同日発表の2月の米雇用統計が労働市場の過熱感を示す内容ではなかったとの受け止めが広がった。米利下げが遠のくとの警戒感は薄れ、金利低下(債券高)や株高が進む場面もあった。ただ債券や株買いの一巡後は巻き戻しも生じ、市場は利下げの行方を見極めようとしている。
2月の雇用統計は、就業者数の前月比増加幅が27万5000人と市場予想の20万人を上回る一方、1月分の増加幅は速報時点の35万3000人から22万9000人に下方修正された。2月の失業率は3.9%と0.2ポイント上昇し、2年振りの高水準を記録。平均時給の伸びは鈍化した。米労働市場は強弱材料が混在しつつも、過熱感が徐々に和らいでいる。(途中略)
雇用統計は市場の利下げ期待を遠ざける内容でなかった半面、勢いづけるほど弱くもなかった。米金利先物市場の動きから政策金利の先行きを予想するフェドウォッチを見ると、FRBが6月までに最初の利下げをする確率は7割程度で前日からほとんど変わっていない。19~20日開催の米連邦公開市場委員会(FOMC)を前に、FRBは9日から金融政策関連の対外発信を控えるブラックアウト期間に入る。今回の会合では政策金利の据え置き予想が大勢を占めるが、市場はFRBが今後の利下げシナリオをどのように示すのかに関心を寄せる。(途中略)』
この記事でのポイントは、「就業者数の前月比増加幅が27万5000人と市場予想の20万人を上回る一方、1月分の増加幅は速報時点の35万3000人から22万9000人に下方修正された。」である。1月雇用は予想を上回る1年振りの大幅増と煽っていたが、改定値は12.4万人も下方修正された。以前から、「速報値」で下駄をはかして市場予想よりも良い数字を発表し、1か月後の「改定値」、2か月後の「確報値」で下方修正する傾向が多いことを指摘してきた。「確報値」ベースでは、23年1月~23年12月の12か月で下方修正されなかったのは7月と12月だけで、残り10か月は全て下方修正され、23年1月~12月合計で36万人にも上る。つまり、「確報値」などをチックする市場関係者も少ないだろうから、「速報値」では政府に都合の良い数字を発表しても気づく人々は少ないと考えているのだろうか。
その下方修正した分を吸収しているのが、景気動向に左右されない「政府部門」で、23年1~12月で67.2万人も増やし、22年年間23.7万人比2.8倍となっている。24年に入っても、1月前年比+3.0%増の5.2万人→2月同+3.0%増5.2万人と下方修正される雇用の吸収を行っている。
では、米雇用の実態はどうなのだろうか。最も重要な正社員数は23年12月-153.1万人→24年1月-6.3万人→2月-18.7万人と3か月連続で減少し、驚きは前年比ベースで2月-0.2%と、コロナショック時の21年3月以来のマイナスを記録したことだろう。雇用統計では先行する派遣社員数は2月-1.5万人で減少は22年4月以来、23か月連続で減少、前年比ベースでも2月-7.0%で22年10月以来、16か月連続でマイナス圏に陥っている。新聞の見出しぐらいの市場関係者は騙せるかもしれないが、雇用統計を分析する市場関係者は騙せないということだろう。
最後に、冒頭の記事では、「2月の失業率は3.9%と0.2ポイント上昇し、2年振りの高水準を記録」と指摘するが、前述のように「政府部門」を増加させて失業率を低く抑えようとしているだけで、実態は、2月セミナーでご紹介した景気後退指標(1960年以降、100%確率)である「サームールール(SRI)」が発動しているかもしれない。実は、修正が少ないと思われるカルフォルニアの失業率を参考にすると実態が明らかで、23年12月5.1%と、22年1月以来の水準に悪化している。「カリフォルニア州失業率-全米失業率」の差は23年8月+0.8%P→9月+0.9%P→10月+1.0%P→11月+1.2%P→12月+1.4%Pと、カリフォルニア経済がより深刻な不況に陥っているのか、全米の失業率が低く抑えられているからなのか、その差は加速している。過去、この差が大きくなるとそれを追うように米国失業率が悪化する傾向が強く、誤魔化すのもそろそろ限界にきているのではないだろうか。