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バーゼルⅢと「AT1債」


バーゼルⅢと「AT1債」

2023年3月27日ロイターは『クレディ・スイス「AT1債」無価値の波紋』を報じている。

『経営危機に陥ったスイス金融大手クレディ・スイスを同業UBSが救済合併するのに当たり、スイス当局がクレディ・スイスが発行した劣後債の一種「AT1債(その他Tier1債)」の価値をゼロにすることを決定すると、市場には戸惑いが広がった。

クレディ・スイスのAT1債保有者には一切返金されないのに対して、通常なら銀行や企業の危機において弁済順位がより低くなるはずの株主は、総額32億3000万ドル相当のUBS株が割り当てられるからだ。これによって他の欧州銀行が発行したAT1債が軒並み売りを浴びる事態になった。

AT1債とは

市場規模が2750億ドル(約36兆円)に上るAT1債は、「偶発転換社債(CoCo債)」とも呼ばれ、発行した銀行の自己資本比率が一定水準を下回ると、株式に強制的に転換されるか、償却されて価値がなくなる。これは規制当局が銀行に対して、市場混乱時に備えて確保するよう求めている追加的な資本バッファーの一部だ。

本来債券として最もリスクの高い部類だけに、利回りは高めに設定されている。AT1債が株式に転換される場合は、当該銀行の財務基盤が強化され存続能力にとってプラスに働く。また銀行は危機時にいわゆる「ベイルイン」として、AT1債の償却を通じて投資家に損失を負担してもらうという方法もある。

クレディ・スイスのAT1債に起きた事態

銀行の資本構造に基づくと、一般的に株式よりAT1債の方が弁済順位は先になる。ただスイスでは、金融当局は経営再建時におけるAT1債の位置付けに関して、この伝統的な資本構造に従う義務はなく、それがクレディ・スイスのAT1債保有者に今回のような結果をもたらした。つまり彼らはクレディ・スイス債権者の中で、何も補償が得られない唯一のグループになる。

一方、通常なら弁済順位がより後になる株主は、クレディ・スイス1株につき0.76スイスフラン相当のUBS株を受け取れる。

弁済順位

欧州の規制当局は20日、損失は債券保有者より株主へ先に負担させるという原則は変わらないと表明。イングランド銀行は、破綻した銀行の株主と債権者が損失を負うということが英国の法律に明記され、AT1債の弁済順位は他の株式関連商品より先だが、「Tier2債」よりも劣後するとの見解を示した。

香港とシンガポールの中央銀行は22日、管轄地域の銀行が破綻した場合は、従来の弁済順位を絶対に守ると述べた。 銀行の経営危機に際してAT1債の扱いでもめたのは今回が初めてではない。2020年3月にはインドのイエス銀行に対して準備銀行(中央銀行)主導で再建に乗り出した後、約10億ドルのAT1債が償却された問題では、今も裁判所で係争が続いている。

投資家への影響

債券投資家は、クレディ・スイスのAT1債が無価値になったことに衝撃を受けている。同行のAT1債は完全に償却される可能性があった点から、スイス当局の決定は合法だとの意見もある。ただ投資家はパニックに陥り、他の銀行のAT1債も同じ運命をたどるのではないかと不安になったため、これらのAT1債の価格が下落した。クレディ・スイスのAT1債保有者は、法律事務所などに助言を求めているところだ。

市場全体への影響

スイス当局の決定は、世界のAT1債市場にマイナスとみなされている。スタンダード・チャータード銀行のビル・ウィンタース最高経営責任者(CEO)は、国際的な銀行規制にも「重大な」影響を及ぼしたと発言した。この先投資家はAT1債の購入にずっと慎重になり、資本基準達成のために債券市場で資金を調達する必要がある銀行にとって状況が以前より厳しくなる、とアナリストはみている。実際、トレードウェブのデータからは、ドイツ銀行やHSBC、UBS、BNPパリバのAT1債が足元で買い気配値が切り下がり、利回りが急激に跳ね上がったことが分かる。』

「AT1債」とは、「Additional Tier 1」の略語。金融危機後に定められた国際的な資本規制「バーゼル3」で「中核的自己資本(Tier 1)」の比率を一定程度以上に保つように定められたために、Tier 1資本に組み入れられる「AT1債」は急増。投資家は負うリスクが高い分、上乗せ金利が高いことから高利回りを求める投資家が積極的に購入したことで、残高は市場推計で30兆円程度に膨らんだ。全体の8割を占めるのは欧州勢だが、日本のメガバンクも3グループで3.6兆円弱の残高がある。尚、米銀は優先株の発行が中心となっている。

クレディスイスの自己資本比率は22年末時点で14.1%と高く、流動性の基準も満たしていた。だが、不祥事が相次いだところに米国発の信用不安が押し寄せ、1日に1兆円以上の預金流出が起きて流動性不安に見舞われた。つまり、資本や流動性の比率がいくら高くても、銀行が信用を失えば、預金流出が止まらなくなり、危機的な状況に追い込まれることをクレディスイスは示してくれたことになる。

では、何でクレディスイスイの危機を察知できるのか。端的に示していたのが株価である。クレディスイスの株価を振り返ると、コロナショック時の20年3月20日週安値6.66スイスフランまで下落した後、一旦、反発したものの、その安値を下回ったのが22年3月4日週6.47スイスフラン。その後は一貫して下落し続けて、23年2月3日週3.32スイスフランから直近23年3月24日週0.76スイスフランまで急落して実質経営破綻に追い込まれた。今回の実質破綻を株価は何度も示唆してきたことになる。

そこで、今後、注意しておかなければいけないのは経営不安が燻るドイツ金融機関最大手のドイツ銀行の株価だろう。スイス政府がクレディ・スイスが発行した「AT1債」と呼ぶ債券の価値をゼロにすると表明した途端、3月24日のドイツ銀行の株価が一時15%安と3年振りの急落、またクレジット・デフォルト・スワップ(CDS)も取引開始の2019年以降で最高の水準に上昇したからである。直近高値となった23年1月30日週高値13.57ユーロから直近3月20日週安値8.85ユーロまで-35%下落し続けているが、昨年10月3日週7.25ユーロを割り込むと危険信号となるのではないだろうか。

実は、昔からこのバーゼル規制に疑問があり、それを調べていくとバーゼル規制が強化される度に金融危機に繋がっていると感じていた。今回もバーゼルⅢ基準を満たすために発行していたクレデイスイスの「AT1債」が欧州の銀行危機を招き始めているが、どんな危機も仕組まれた危機であることを今回も示してくれている。

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