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「米国債の変動率が13年振りの水準」は何を意味するのか?


「米国債の変動率が13年振りの水準」は何を意味するのか?

22年9月29日日経新聞に『金利上昇、世界揺さぶる~米10年債、12年半ぶり4%乗せ、強まる景気懸念』が報道されている。

『金利の急速な上昇が世界を揺さぶっている。米国の10年物国債利回りは28日、2010年以来12年半ぶりに4%を上回り、世界の株安やドル高につながった。金融引き締めや財政拡張を警戒した国債の売りが続けば、混乱が危機につながる危険性も高まる。英国の中央銀行は金利上昇を止めるための国債購入を余儀なくされた。

「私は『まぬけな楽観主義者』だった。破壊的なプロセスになろうともインフレ抑制のみに集中しているようだ」。米運用大手インベスコのクリスティーナ・フーパー氏は28日付のメモに米連邦準備理事会(FRB)の引き締めへの警戒感を記した。市場の一部で浮上していたFRBが利上げの手を緩めるという観測は後退し、金利上昇(債券価格の下落)を見越して国債を売る動きが止まらない。8月初めに2.6%程度だった米10年物国債利回りは28日のアジア時間に一時4%を上回った。FRB高官からはインフレ抑制への決意を示す発言が相次ぐ。27日にセントルイス連銀のブラード総裁は物価が高止まっても物価目標を2%から引き上げることはないと強調。米国の労働市場の強さを強調して金融引き締めを長く続ける考えを鮮明にした。ミネアポリス連銀のカシュカリ総裁も「現状の引き締めペースは適切」と急ピッチの利上げに自信を示した。

欧州でも債券市場の混乱が続く。ポピュリズム(大衆迎合主義)色の濃い右派政権が誕生する見通しとなったイタリアの10年債利回りは28日、一時4.9%まで上昇した。トラス政権の減税策で大荒れとなった英国市場では同日、英イングランド銀行(中央銀行)が国債購入を発表、前日に5%程度だった30年債利回りが4%を下回る水準に低下する場面があった。金利上昇が実体経済にもたらす影響は強まっている。英国では住宅ローン金利の急上昇を受けてロイズ・バンキング・グループ傘下のハリファクスが手数料と引き換えに低金利で借りることができる住宅ローンの取り扱いを停止した。米国では30年固定の住宅ローン金利は足元で6.29%と14年ぶりの高水準となった。

株式市場では企業業績の悪化を警戒して株式を売却する動きが強まってきた。28日のアジア市場では、日経平均株価が前日比397円安の2万6173円と7月上旬以来の安値に沈んだ。一時、2万6000円を下回る場面もあった。下げのきっかけは、一部メディアで「米アップルが新型スマートフォン『iPhone14』の増産計画を撤回した」と伝わったこと。利上げによる需要減退が問題とされ、世界的な景気悪化が意識された。JPモルガン・アセット・マネジメントの前川将吾氏は「今年前半の株安は、金融引き締めを受けた高PER(株価収益率)銘柄などのバリュエーション調整にとどまっていたが、今回は金利上昇が幅広い企業の業績の重荷となり実体経済の悪化を招きつつある点でより深刻だ」と話す。金融市場ではリスクを避けるために基軸通貨のドルを買う動きが強まり、ドル高が加速するスパイラルも生じている。「このようなドルの上昇が歴史的に金融・経済の危機をもたらしてきたことに注意が必要だ」。米モルガン・スタンレーのマイケル・ウィルソン氏はFRBの急激な金融引き締めとそれに伴うドル高に警鐘を鳴らす。』

記事の冒頭に『「私は『まぬけな楽観主義者』だった。破壊的なプロセスになろうともインフレ抑制のみに集中しているようだ」』とFF金利の予測を間違えたことを反省するメモを紹介する。先週、2022/09/26『やはり「インフレショックから金利ショック」へ』のT-Modelコラムにおいて、

『インフレ沈静化にあまり効果のない政策金利はどこまで引き上げる可能性が高いのだろうか。T-Modelのオリジナル分析では、「10年債-2年債」の逆イールドがボトムアウト、つまり、順イールドになるまで「2年債利回り-政策金利」は追いかける可能性が高いと考えてる。』と指摘した。

22年9月末の「10年債-2年債」は-0.44%と、マイナス幅が過去最大レベルだった1989年3月-0.43%を超え、2000年4月-0.49%に迫っている。この時期の「2年債利回り-政策金利」を振り返ると、1989年7月-1.52%、2000年8月-1.37%までマイナス幅は拡大している。つまり、このT-Model理論からすると「2年債利回り-政策金利」は-1.37%~-1.57%まで下落すると予測されるが、22年9月末の「2年債利回り-政策金利」は+1.0%にとどまっており、FF金利の引き上げはまだまだ不十分ということになる。仮に、2年債利回りが現状水準を維持しているとすると、FF金利は+2%以上引き上げなければならない。また、そのタイミングをT-Model理論で計測すると、「10年債-2年債」と「2年債利回り-政策金利」のタイムラグは1989年、2000年ともに4か月で、仮に22年9月末の「10年債-2年債」-0.44%がボトムとすると、「2年債利回り-政策金利」のボトムは23年1月という考えられる。

米国連邦準備制度理事会(FRB)が9月20、21日に開催した連邦公開市場委員会(FOMC)において、FF金利の引き上げについて2022年末の見通しを4.4%と前回の3.4%から大幅に上方改定され、また2023年末のFF金利の見通しも4.6%に上方修正された。市場関係者の一部には、2022年末の見通しが前回の3.4%→4.4%と1%引き上げられたことがサプライズで、それが9月後半の株式市場の暴落の原因との意見もみられるが、T-Model理論から導き出される5%~5.25%に比べると、まだまだ市場は楽観的と言わざるを得ない。政策金利を引き上げてインフレを沈静化できると考えていること自体が市場の「金融政策のミス」なのだが、FF金利のピークの予測自体も見誤っている可能性をT-Model理論は見抜いている。過去の歴史が示す通り、人が行う「金融政策のミス」は今回も現実化してしまうのだろうが、今の興味はそれがいつ現実化するだけなのである。

世界の金利急騰に関してもう一つの気になる記事は、2022年9月30日日経新聞に『米債変動率、13年ぶり水準~英金利乱高下で不安「伝染」 株や通貨にも波及』の報道である。

『グローバル市場で資産価格が急変動している。米国などの金融引き締めで金融環境が急変したところに英国での政策の混乱による長期金利の上昇(債券価格は下落)が重なり、米債券相場の予想変動率を示す指数は一部で金融危機以来の水準となった。不安心理は株式や通貨にも波及し、投資家の取引敬遠がさらなる相場変動を呼び込む悪循環のリスクもみえる。

発端は英国債利回りの急騰だ。トラス政権の大規模減税と国債増発計画を受けて英国債に売りが集中し、英イングランド銀行(中央銀行)は28日に英国債の緊急買い入れ表明に迫られた。英10年物国債利回りは一転、4.00%と前日から約0.50%低下。米長期金利も約0.20%低下し、米ダウ工業株30種平均は7営業日ぶりに反発した。英金利の急騰劇が終息したとの見方は少ない。野村証券の中島武信氏は「英国政府の財政拡張路線は変わっていないため、英国発の債券安の流れが止まるには時間が掛かりそうだ」と指摘する。

英金利の上昇過程で不安心理は米債市場に「伝染」した。米国債の予想変動率を示すMOVE指数は短期の市場心理を映した1カ月物で28日に158台と2020年3月以来の大きさとなった。3カ月物は151.6とリーマン・ショック後の09年6月以来、13年ぶりの水準まで上昇した。米連邦準備理事会(FRB)が量的引き締めを進め、買い手が減った米国債市場は需給が緩み、もともと不安定だった。

米金利の急変動は幅広い資産に広がる。米S&P500種株価指数の予想変動率である米VIX指数は3カ月ぶりに警戒感の節目とされる30を上回って推移する。VIX指数やMOVE指数など資産に織り込まれる予想変動率の上昇は、それ自体が投資家のリスク許容度を低下させ、債券安や株安を招く。見込まれる損失を一定量に抑えるリスク管理の仕組み上、変動率が拡大すると半ば自動的に資産の圧縮を迫られる機関投資家も少なくないためだ。株式市場では、変動率に応じ持ち高を調整する「リスクパリティ」型の投資家が変動率の上昇を受けて株売りに動き、株価をさらに押し下げる。(後省略)』

この記事で重要な指摘は、『VIX指数やMOVE指数など資産に織り込まれる予想変動率の上昇は、それ自体が投資家のリスク許容度を低下させ、債券安や株安を招く。見込まれる損失を一定量に抑えるリスク管理の仕組み上、変動率が拡大すると半ば自動的に資産の圧縮を迫られる機関投資家も少なくないためだ。株式市場では、変動率に応じ持ち高を調整する「リスクパリティ」型の投資家が変動率の上昇を受けて株売りに動き、株価をさらに押し下げる。』。

リーマンショック以降、この「変動率」がリスクファクターに組み込まれる「リスクパリティ」型のファンドが一般的で、変動幅が大きくなればなるほど自動的に資産圧縮を迫られることになる。ただ、日経平均とNYダウのT2ボラティリティを例に見てみると、リーマンショックやコロナショックのように-1σを大幅に下回る(ボラティリティが大きい)ようなボラティリティはまだ発生しておらず、日経平均もNYダウも-1σすら下回っていないのが現状。まだまだマーケットは冷静であることを示しているわけだが、それはこれから○○ショックの本番を迎える可能性が高いことを意味している。

最後に、2019/10/21『米長期金利と連動する「金銅比率」』のT-Modelコラムにおいて、

『「金銅比率」を検証すると、米長期金利の水準は別にして、ピークとボトムのタイミングがほぼ一致している。特に、リーマン・ショック後の09年以降は、水準自体も一致していることから有効な指標の一つと言えるだろう。直近9月の「金銅比率」は3.89倍で、過去の水準から見ると底値圏の水準にある。従って、そろそろ銅が上昇するか、金が下がるかの動きで「金銅比率」の底打ちが表面化してくるタイミングが迫っている。それは同時に、長期金利のボトムアウトも意味することになる。』と指摘した。

同コラムから3年が経過した現在、長期金利は予告した通り、大きく上昇してきたのだが、疑問なのは米長期金利と連動する指標の「金銅比率」が下向きで、長期金利上昇の動きと乖離している点である。

このようなときに考えるべきことは、長期金利がこれまでと異なる要因で上昇している可能性があるのか、それとも現在の長期金利の急騰が間違っているのか、また「金銅比率」の低下が間違っているのか、のどのパターンなのかである。現在のところ、「長期金利がこれまでと異なる要因で上昇している可能性」と考えているがどうだろうか。現在のインフレが「40年間の金利低下局面」に終止符を打とうとしているからである。

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